本研究は、溶液内での光化学過程、特に異なる電子状態間の遷移を伴う過程に注目し、これを記述する実体的なモデルを最近の電子状態理論、反応動力学理論および液体のシミュレーションの手法に基づいて構築することを目的として、平成3年度に開始された。今年度は、メタノール中でのジメチルアミノベンゾニトリル)DMABN)の分子内電荷移動状態の生成過程の動力学を取り上げた。ここでは、溶媒の運動に対してharmonic bathモデルを仮定して溶液内反応に対する新しい反応経路ハミルトニアンを導き、その中に含まれる反応の反応自由エネルギー面、溶媒和座標に対する有効質量、摩擦核などを分子動力学計算により求めた。更に、この反応経路ハミルトニアンから一般化Langevine方程式を求め、トラジェクトリー計算により反応速度を求めたが、実験結果と整合的な結果を得た。また、溶液内反応のポテンシャル面を求める際、溶媒中での溶質分子の電子状態を計算する必要がある。本研究では、(1)溶媒の連続誘電体近似に基づく方法と、(2)液体論の積分方程式に基づく方法の開発を行った。前者では、Friedmanの鏡像近似を用いた方法を採用し、極性溶媒中での反応分子の電子状態とエネルギー勾配を求める方法を開発し、アセトアミドの互変異性化反応やS_N2反応の遷移状態の構造を求めた。また、後者では、分子性液体に対する有力な方法であるRISM法と電子状態計算を結合させた方法、RIAM-SCF法を提案し、水溶媒中でのカルボニル化合物の励起エネルギーのシフトの計算を行った。溶質分子としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトンおよびアクロレインを取り上げた。
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