種々の物質の温度に対する応答と電場に対する応答は分子運動の異なる側面を反映し、それらの精確な測定は結晶やガラスの中で起こる様々な分子過程の研究に多くの知見をもたらす.すでに試作した電気分極カロリメ-タ-によって13Kから300Kにいたる温度範囲でこれら二つの量を同時に測定することが出来る.本研究の目的は電気測定と熱測定をさらに低い温度まで拡張することである. 平成3年度には極低温用クライオスタットを設計し、製作した.このクライオスタットは液体ヘリウム4と液体ヘリウム3を冷媒とし、0.3Kの極低温から作動する.即ち、大気圧下にあるヘリウム4で冷却された空間内で、ヘリウム4を減圧下におく.その温度は1.2Kに低下する.ヘリウム3を1.2Kの低温に接触させることにより液化し、その蒸発熱で0.3Kを得る.このクライオスタットは完成し、現在排気系を整備しつつある.極低温における熱測定と電気測定を正確に行うに当たり、電気的シ-ルドと熱的シ-ルド、及び導線のインピ-ダンスなどに多くの制約がある.この点に関してテフロン絶縁ステンレス製シ-ルド線がきわめて有効である.このシ-ルド線は極低温における熱と電気測定の両立に不可欠の役割を果たす.その有効性を低周波領域の誘電率によって確認した.また温度測定に関してロジウム鉄合金抵抗温度計を極低温でも利用できるように20nWの低電力で使う方法を試み、1mKの測温分解能を得た.本装置による測定に先立ち、特異な水素同位体効果を示す水素結合性結晶酸性セレン酸ルビジウムとその重水素置換体の熱測定を行い、重水素塩において、軽水素化合物に見られない相転移を見出した.装置の完成後、本物質およびガラス性結晶をふくむその他の物質について熱電気同時測定を行う予定である.
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