昨年度に引き続きベンゾフェノンおよびそのメトキシ誘導体の偏光過渡吸収スペクトルを研究した。はじめに、構築した測定系の評価を行うために、延伸ポリビニルアルコールフィルム中にドープされたアントラセンを試料とし、レーザー照射後400nsにその偏光・三重項-三重項吸収スペクトルを測定した。その結果は混晶を用いて測定した結果と一致しており本測定装置により信頼できるデータが得られる事を確認した。次にベンゾフェノンとそのメトキシ置換体の偏光過渡吸収スペクトルをレーザー照射後20〜40nsに測定し、遷移双極子モーメントの方向を決定する事により、メトキシ基導入に伴うスペクトル変化を解析する事ができた。特に置換基導入に伴ってベンゾフェノンで見られない分子短軸方向に分極した吸収帯が450nm付近に、また長軸方向に分極した比較的強度の大きい吸収帯が650nmより長波長側に現れることを明らかにした。更にベンゾフェノンの偏光過渡吸収スペクトルをレーザー照射後400nsに測定したところ、ベンゾフェノンケチルラジカルによるスペクトルを測定する事ができた。このスペクトルを解析して電子スペクトルの帰属を行った。またこの結果は、γ線照射により低温(77K)で延伸ポリビニルアルコールフィルム中に生成したケチルラジカルの偏光過渡吸収スペクトルの解析結果と一致している事が明らかになった。現在このラジカルの偏光過渡発光スペクトルを測定する準備を進めている。これらの結果の一部は本年度(7月)ベルギー(ルーベンス)で開かれたIUPACの光化学シンポジウムで発表しており、現在学会誌への投稿を予定している。また昨年から本研究の基礎研究として進めてきたフェニルシラン化合物の光化学反応中間体の発光スペクトルに関する研究結果は、J.Phys.Chem.(NO.3)に発表した。
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