研究概要 |
先に開発した非同期式時間分解フーリエ変換赤外分光光度計を、本研究の目的に適合するよう顕微分光装置と組み合わせた。これは、レーザー光で照射される試料部分は点状となるため、その点状部分に赤外光を絞り込むことにより、励起分子の赤外吸収を測定することを目的としたものである。レーザーとしてQスイッチ付き連続発振Nd:YAGレーザーを用い、非線形光学材料BBO結晶でこのレーザーの基本波(1064nm)と2倍波(532nm)とを混合し、3倍波(355nm)を発生させた。出力は最高15mWが得られた。時間幅約70ns,くり返し2kHzのパルスをQスイッチングにより発生させ、これを試料に照射できるようにした。この測定装置を用いて、室温の固体試料(KBrの錠剤)について行った測定では、アクリジンの励起三重項に由来する吸収が観測されたが、他の有機化合物については、酸化とみられる化学反応やレーザーパルスによる局所的温度上昇、試料分子の蒸発といった望ましくない現像も鋭敏に検出された。そこで、赤外顕微鏡の試料台に置くことができる超小型冷却装置を用い、120K程度の低温、真空下での測定を試みた。これにより、室温、空気中での測定と比べて、励起三重項状態等についての赤外スペクトルの測定が容易になる可能性が高まっている。この超小型冷却装置では、乾燥窒素またはアルゴンを冷却媒体とすることにより80Kから320Kまでの任意の温度を設定することができるが、現在はアルゴンを媒体として120Kでベンゾフェノン,4-フェニルベンゾフェノン,ベンジリデンアニリン等の芳香族分子について、355nm光照射中及び照射後の赤外スペクトルを測定し、その結果を解析している。低温においても光照射による局所的温度上昇が起こり、これによるスペクトルの変化と光物理学的あるいは光化学的変化とを分離することが重要であることが明らかとなった。
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