本研究で目指すのは構成要素として金属原子を含む分子種、あるいは分子錯体を高分解能で分光し、その分子構造を決定するとともに、スペクトルの微細構造や超微細構造の解析から、結合に関与する電子の電子構造まで明らかにし、これら錯体の特異性を、構成原子のレベルで理解する事である。分光を行なうためのフ-リエ変換マイクロ波分光器は、研究室に既設のものを利用した。 本計画のもとで、今年度は、金属原子のレ-ザ-蒸発に必要なレ-ザ-を購入した。当初、波長固定レ-ザ-の導入を予定していたが、蒸発に用いるレ-ザ-光の波長を可変にすることにより、目的とする錯体の生成効率を飛躍的に増加できるとの予測のもとに、波長可変の色素レ-ザ-を導入した。現在、レ-ザ-光を真空系に導入して試料を蒸発させ、錯体を生成するためのノズルを設計・製作中である。一方、既存の分光器の真空系がレ-ザ-光を利用する実験にはサイズが小さく、取り扱いに不便であるので、より大型の真空槽を設計・製作しこれと交換した。更に分光可能な周波数範囲をこれまでの18GHz以下から、25GHz以上まで拡大した。これにより、レ-ザ-蒸発による分光例の報告されている2ー3の金属酸化物分子の分光が可能になり、装置の性能テストが可能になる。 これらの分光器の改良に基づき、本年度は不安定分子を含む錯体の分光を試みた。その結果、ArーCS、ArーOH、ArーSOの回転スペクトルを初めて観測することに成功した。特に、開殻分子を含む錯体の回転スペクトルを観測できたことは、本研究が目的とする金属錯体の分光のための非常に重要な一ステップと評価できる。
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