昨年度中に導入したレーザーシステムと既存のフーリエ変換マイクロ波分光器を基に、本年度はレーザー蒸発の可能なノズルを作成し、金属原子を含む分子の分光を行った。レーザー蒸発においては、試料の同一の点にレーザー光を当て続けると穴があいてしまい、安定に信号を観測できない。そのために試料をパルスレーザーの周期に同期させて動かす必要がある。この部分を工夫し、取扱い容易で高性能のノズルを製作することができた。このノズルを使用して、すでに既知の不安定分子であるSiC_2のスペクトルを観測したところ、非常に強い信号を観測でき、分光装置としては当初の性能を発揮していると判断できた。 この結果に基づき、いくつかの新しい分子の分光を行った。その第一は、神奈川工科大学の川嶋氏との共同研究によるNaBH_4およびKBH_4の回転スペクトルの観測である。これらは、常温では粉末状の試料であるため、これを接着剤で固めレーザー蒸発を行った。本装置を用いた実験により決定した超微細相互作用定数から、これらの分子では金属原子とBH_4がかなりイオン性の強い結合をしていることがわかった。 続いて、金属マグネシウムロッドのレーザー蒸発により生成したMg原子に、Cl_2を反応させることによって開殻のフリーラジカルであるMgClの回転スペクトルを観測することができた。この分子についても超微細相互作用定数を精度良く決定することができ、原子間の結合に関する知見を得た。この系は、レーザー蒸発によって生成した原子に分子を反応させて、金属原子を含む短寿命分子を生成したものであり、金属原子を含む分子の生成とその分光の新しい可能性を実証したものである。 今後は、更にレーザー蒸発に使用するビームを複数にして異種金属を含む錯体を生成することを試みる。更に、金属原子を含む分子を構成要素とする分子錯体の分光にこの方法を適用する予定である。
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