本研究は波長可変ピコ秒赤外パルスの発生とその固体表面の非線形分光への応用を目的として、非線形光学結晶を用いた差周波発生と、得られた赤外パルスを用いた界面和周波発生による表面吸着種の振動スペクトルの観測を行った。 差周波発生のポンプ光としてはモ-ドロックピコ秒パルスYAGレ-ザ-の基本波(1064nm、35ps、3mJ)を用い、シグナル光としては自作の基本波(10mJ)励起の進行波型色素レ-ザ-により発生させた近赤外領域のレ-ザ-パルスを用いた。ここで使用した色素は発振段、増幅段供にQーSwitch No5(3x10^<ー3>M)で、色素レ-ザ-の発振領域は1.25μm〜1.40μm、エネルギ-は1.35μmにおいて約400μJであった。差周波発生は非線形光学結晶AgGaS_2を用いたTYPEーIの位相整合条件により行い、得られた赤外レ-ザ-パルスは波長領域が4.5μm〜7.0μm、線幅は20cm^<ー1>以下、時間幅約35ps、エネルギ-は約30μJ(5μm)であった。 こうして得られた波長可変ピコ秒赤外パルスを用いて、Si(100)面上に水素を吸着させることにより生じるSiーH、SiーH_2等の振動スペクトルの観測を界面和周波発生法(SFG)により行った。その結果、Si表面の粗さに起因する不均一幅により線幅が著しく広がったSiーH、SiーH_2等の伸縮振動のスペクトル線が、2080cm^<ー1>付近に線幅が50cm^<ー1>以上のブロ-ドなスペクトルとして観測された。 以上の結果は、本研究により作製した差周波発生システムとそれを用いた非線形分光法が固体の表面構造の研究に対して有効であることを示していると同時に、表面吸着種のダイナミクスの研究にも充分活用出来ることを示唆している。
|