研究概要 |
本研究は、固体表面に吸着した分子の反応が、気相と凝縮相の性格を合わせもっている点に着目したもので、放射光を光源とし、超高真空下で固体表面に吸着した分子の光化学反応を、光電子分光法、イオン分光法、発光分光法等を駆使して調べることにより、反応過程の解明を目的とするものである。研究は、実験装置の設計・製作に始まり、その性能評価を経て、予定通り、次の2つの研究課題を中心に、真空紫外光による表面光化学反応の動的研究を行った。 1.シリコン単結晶表面に単分子層吸着した水分子の光刺激イオン脱離反応では、水分子の酸素K殻電子励起では、主に水素原子イオンと酸素原子イオンが観測され、その収量スペクトルの形はそれぞれ異なっており、励起エネルギーに強く依存することが調べられた。同時に測定したオージェ電子収量スペクトルおよび表面の研究に初めて適用されたイオンーイオン・コインシデンス測定の結果との比較から、この系でのイオン脱離過程には、種々の電子励起過程が関与し、その結果生じる多価イオンと脱離過程中に基板からの電荷移動による中性化反応が重要な役割をしていることが明らかになった。 2.PMMA薄膜(100A厚)の軟X線領域の放射光励起光分解反応では、Au蒸着Si(100)基板上にスピンコートしたPMMA薄膜を試料とした。主な生成イオンとして、H^+、CH^+_X(X=1,2,3)HCO^+、COOCH^+_3が観測され、その収量スペクトルは、炭素および酸素原子のK-吸収端近傍でそれぞれ特徴的な振る舞いを示した。すなわち、CH^+とCH^+_2では、炭素原子のK-吸収端近傍で他のイオンには見られない鋭いピーク構造が観測された。また、側鎖の分解によるHCO^+では酸素原子のK-吸収端近傍で増加がみられるが、COOCH^+_3では見られないことなど分子内位置選択励起分解反応と関連する大変興和深い結果が得られた。
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