研究概要 |
薬理作用をもつ光学活性化合物では一般には一方の光学異性体のみがその活性を示すため光学活性なファインケミカルズは厳密に一方の鏡像体のみを高光学純度で合成する必要がある。光学活性β-ケトール類は昆虫フェロモン類等の天然物の合成の有用なキラルシントンとして用いられている。中でもテトラヒドロチオピラン環を含むヒドロキシケトン類は硫黄原子の特異的反応を利用して有用なキラルシントンとして用いることができる。しかしながらテトラヒドロチオピラン環を含むヒドロキシケトン類はアルドール反応条件化不安定な化合物が多いことが知られており光学活性体の合成には困難をともなう。そこでテトラヒドロチオピラン環を含む1、3-ジケトン類を還元する事によりβ-ヒドロキシケトンを合成できれば極めて有用である。3-アシルテトラヒドロチオピラン-4-オンの還元反応では8種の異性体が生成する可能性があり、位置およびエナンチオ選択性の問題を解決する必要がある。今年度は3-アシルテトラヒドロチオピラン-4-オンのパン酵母還元の位置およびエナンチオ選択性について詳細に検討しベンゾイル、プロピオニルおよびアセチル誘導体の還元では高い位置選択性で環内のカルボニル基のみが還元されたケトールが優先して得られることを見いだした。この還元反応は反応条件を変えることにより大きく生成物の光学純度が変化し、希釈条件下でpH7の緩衝溶液中パン酵母のみを用いて還元を行なった場合には良好な収率で光学的に純粋なシス体のケトールを優先的に得ることができた。さらに3-プロピオニルテトラヒドロチオピラン-4-オン誘導体の還元により得られた(3S,4S)-ケトアルコールをRaney-Niで脱硫することによりこくぞう虫の集合フェロモンである(-)-(4R,5S)-Sitophilureを高い光学純度で合成できることを明らかにした。
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