研究概要 |
キラルな有機化合物は近年生理活性化合物、機能性新素材などにおいて、機能発現におけるキラリティーの関与が解明されつつあり、増々有用性が認識されている。これらの合成には官能基変換が容易な置換基を持つ光学活性体がそのキラルシントンとして必要であるが、硫黄官能基は反応性にも富むことが知られており、各種の官能基変換法や炭素鎖伸長法などが報告されている。従って硫黄官能基を有する光学活性シクロアルカノールはきわめて効果的な出発原料となりうる。本研究ではパン酵母還元の高い特異的不済認識能を活用して含硫黄環状ケトン類の立体選択的還元反応を検討し、得られた含硫黄キラルシントンを硫黄官能基の有する選択的な反応性を利用して生理活性化合物の合成へ応用した。すなわち2_-フェニルチオシクロヘキサノン及びシクロペンタノンあるいは2_-フェニルチオシクロペンテノンのパン酵母還元では(1S,2R) _-2_-フェニルチオアルカノールが光学的に純粋な形で得られることを見いだした。また4_-オキソ _-3_-テトラヒドロチオピラニル酢酸エステルの還元では光学的に純粋なヒドロキシエステルが良好な収率で得られることを明らかにし、官能基変換を行なうことによりプロスタグランジン合成の有用中間体に光学的に純粋な形で誘導することに成功した。また3_-アシルテトラヒドロチオピラン _-4_-オン誘導体の還元により(3S,4S)_-ケトアルコールが良好な収率で得られることを見いだし、さらに生成物をRaney-Niで脱硫することによりこくぞう虫の集合フェロモンである(_-)_-(4R,5S)_-Sitophilureを高い光学純度で合成することができた。以上の様に基質である環状ケトン類の近傍に硫黄官能基を導入することによりパン酵母還元におけるエナンチオ選択性の制御および、硫黄官能基の反応特性を活用した還元生成物のファインケミカルズ合成への応用が極めて効率良く行なえることを明かにした。
|