数多くの海洋天然物の中、医薬品として実用化された化合物は、皆無に等しい。その原因の一つは、生理活性試験に供するに十分な量が確保できないためであろう。申請者らは特異な構造と生物機能を持つ海洋天然物の大量供給とそれらの分子認識能を解明するために、以下に示す合成研究を行った。 1)ピロロキノリンアルカロイドの合成研究 ピロロキノリンアルカロイド類は顕著な抗腫瘍活性を示し、特にトポイソメラーゼIIの酵素阻害活性を示す点で注目されている。申請者らはこれらの中、ディスコハブジンC、イソバゼリンC、バゼリンC、マカルバミンA、B、C、Dの全合成を達成した。さらに、これらの合成中間体についても強い抗腫瘍活性を示すものが見出された。 2)海洋生物由来の新規ピロン類の合成研究 ペロニアトリオール、イリコナピロン類は有肺類の防御物質と考えられている。申請者らは新しいγ-ピロン環の構築法を開発し、次いで上記ピロン類の絶対配置を合成的に明らかにすることが出来た。 3)ブリオスタチン類の合成研究 ブリオスタチン類は、ポリエーテルマクロリドであり、強い抗腫瘍活性を示す。これらの化合物の大量合成を目指し、現在までブリオスタチン11のすべての炭素原子を含む主フラグメントの合成に成功している。さらに、その全合成に向けて研究を進めている。 4)海洋生物海綿由来の生理活性物質の合成研究 申請者らは、抗菌活性を示すバスタジン、アエロチオニンなどの全合成をすでに達成している。さらに、この研究成果を踏まえてプサムプリシニンAの全合成を試みている。 他方、発癌促進作用を示すホルボールや抗腫瘍性を示すイソシアノヒドロアズレン類の全合成を行うために、共通の部分構造を持つトランス-ヒドロアズレン骨格の電解反応を用いた一般合成法を確立した。
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