研究概要 |
本研究では,無機固体膜,有機液膜,分子膜などの,膜界面で起こるイオンの認識と,それに伴うイオン選択的電荷分離について,今までの同分野の背景をふまえ,多くの点で明瞭でなかった,原子・分子レベルの基礎化学の機構の解明と,新しい認識機構に基づくイオンセンサーの開発に関する実験をいくつか行った. 本研究の成果をもたらした研究の特徴は以下のようなものである. まず,今まで電荷-双極子相互作用に基づく,クラウン型イオン認識等が盛んに用いられ成功をおさめていたが,本研究では静電的相互作用,相補的塩基対,多点水素結合,疎水性肉孔への取り込み,π-π相互作用,あるいはそれらの複数を同時に用いる多点認識などの,今までのイオン選択性電極でのイオン認識に用いられることがほとんど或は全くなかった,新しい機構に基づく,イオンセンサーをそれぞれ初めて提案,基礎的開発を行った. また,今までの熱力学,動力学的アプローチによる膜電位の研究に続くものとして,有機液膜界面のμmスケールの深さを見るFTIA-ATR,同じくDebye半径程度を見ると思われる光第二高調波発生法,また固体膜界面の単原子層を観測できるion scattering分光法などを用い,膜界面で生起するイオン選択的電荷分離,パームセレクティビティーなどの機序について相互に,原子・分子レベルで論ずることを行った. 膜界面でのイオン選択的電荷分離の現象は,基本的に界面の"ほとんど"二次元の空間的広がりしかない基礎化学現像であり,その系統的化学研究は,固体界面物性,液膜,分子膜,生体膜の膜電位,二相分配,種々の膜輸送現象等と関連し,重要であり,また新しい分子・イオン検出法,分離法の開発のメディアとしても引き続き重要である。
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