インプランテーションによる化学反応を系統的に研究し、従来イオンインプランテーションがホットアトム化学反応のシミュレーションとして有意義であるという常識をくつがえす新規な結果が得られ、それを確認することができた、また核反応反跳インプランテーションはイオン・インプランテーションよりも照射線量が少なく、局部的なダメージが軽微であるため、詳しい反応機構を研究するには核反応反跳インプランテーションによる方が有利であることも明らかにした。 本研究ではβジケント金属錯体におけるインプランテーション反応の反応機構を中心としてつぎのような結果が得られた。 1)インプランテーションの化学反応は低エネルギー側ではホットアトムの反応と類似しているが、高エネルギー側ではホットアトムの反応とは非常に異なる反応様式を示す。すなわちインプランテーション反応ーとくに置換反応収率はエネルギーの増加とともに、2段階的に増加する。 2)高エネルギー側のインプランテーション反応機構は「衝突カスケード模型」によって説明され、収率はエネルギーに対して変曲点のある曲線となる。この曲線は核阻止能、反応効率、距離減表項等を考慮して積分することによって定式化され、理論値が実験値をよく説明することがわかった。 3)衝突カスケードによる高圧・高温パルスがインプラント原子に作用するという仮説の妥当性を験証し、それが衝撃波作用と似た様相を示していることを記述できた。 なおβジケトン錯体以外ではメタロセンについて研究し、反応促進が認められること、促進の程度は軽微であること、それが分子の構造効果として説明されることを論じた。
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