研究概要 |
Co(III)のホスフィン(PR_3)とホスファイト(P(OR)_3)錯体を比較するため,[Co(dtc)_2{P(OR)_3}_2]^+型錯体(dtc=ジチオカルバマトイオン)を合成した.この錯体はシス異性体のみ生成するが,溶液中,紫外光を照射するとトランス体に異性化し,暗所で熱反応により再びシス体に異性化することを見いだした.一方,両異性体の電気化学的挙動を調べたところ,Co^<2+>,Co^+に可逆的に還元されるとともに,速やかにシス-トランスの平衡に達することを見いだした.この様な光化学的,電気化学的性質は対応するホスフィン錯体では見られなかった.そこで,対応するホスフォニト(PR(OR)_2),ホスフィニト(PR_2(OR))錯体を合成し、測定したところホスファイト錯体と同様,還元種の異性化反応を示した.さらに,[Co(dtc){P(OR)_3}_4]^<2+>錯体を合成し、電気化学的性質を調べたところ,Co_<2+>の還元種はホスファイトが酸素で配位したlinkage異性体を生成していることを示唆した.同様の異性体は紫外光を照射することによっても生成した.今後更に詳細に検討する予定である. アミン,ホスフィン,アルシンとCo(III)との配位結合の相違を知るため,[Co(acac)_2{NH_2CH_2CH_2X(CH_3)_2}]^+(X=N,P,As;acac=アセチルアセトナトイオン)を合成し,X線構造解析を行った.Co-Xの結合距離はN,P,Asの順に長くなるが,XにトランスのCo-OとシスのCo-Oとの結合距離の差は,P>As>Nの順となり,Co(III)に対する15族元素のトランス影響の程度を示した.吸収スペクトルの研究からこれら配位原子の配位子場強度も同じP>As>Nの順であった.これら錯体の酸化還元電位のデータとともに,配位結合について更に詳細に検討中である.
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