「分子ヒステリシス」錯体の詳しい熱力学的および動力学的な研究を行なった。複核錯体の各化学種間のエネルギー関係、異性化エネルギー、異性化速度、中間酸化種間の電子移動速度など必要なすべての熱力学的、動力学的パラメーターを求めた。中間酸化種間のエネルギー差は2.1kJ/moleと小さく、電子移動速度は0.12sec^<-1>と非常に遅い。これが分子ヒステリシスを示す原因となっている。また、異性化エネルギーは55kJ/moleと36kJ/moleであり、異性化速度は3.8と13sec^<-1>である。完全に機構の解明ができた。 これらの研究を踏まえて異性化のエネルギー、異性化速度、異性化酸化還元電位はどのような要因で支配されているか?を明かにするため、各種スルフォキシドを用いた単核ペンタアンミンルテニウム錯体の電気化学挙動をしらべた。これより次のことが明かになってきた。Ru(III)-SOおよびRu(III)-OSの安定性(平衡定数)が重要であり、その安定性はスルフォキシド置換基とルテニウムイオンとの立体反発に密接に関連している。この研究によりスルフォキシド分子の動きやその速さを電位的に制御することが可能になってきている。 また、「分子ヒステリシス」を分子の記憶現象として一般化できるか?について考察して、それらのもつ本質を明かにした。そして、どのような条件でそれらが可能かを議論した。また、今後、どのような領域でそれらが見いだされるかについても議論した。
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