研究概要 |
タイプIII銅タンパク質の活性部位では,2個の銅イオンが対を形成し,一種の複核銅錯体の形で存在している。これらのタンパクは特有の磁気的・電気化学的・分光学的性質をもっている。これらの性質と構造の関係を明らかにするために以下のモデル錯体を平成3,4年度に続いて合成し,これ迄の3,4年度の研究結果と合わせて総合的に検討を行なった。 1.1,3-ジアミノ-2-アノールあるいは1,5-ジアミノ-3-ペンタノールとアセチルアセトンまたはベンゾイルアセトンとのシッフ塩基を含み,N_3^-,OH^-等で橋かけした複核銅(II)錯体を合成した。これらのなかで,1,3-ジアミノ-2-プロパノールからなるシッフ塩基を含みN_3^-で橋かけした2種の錯体では銅(II)イオン間にきわめて強い反強磁性的相互作用が働き,その結果反磁性の錯体を見いだした。 2.イミダゾール窒素を含む二核配位子N,N',N'-テトラキス[(1-メチル-2-ベンズイミダゾリル)メチル]-1,3-ジアミノプロパンなどとN_3^-等各2個で橋かけした複核銅(II)錯体を合成した。これらの錯体はすべて銅(II)イオン間には反強磁性的相互作用は存在しないかある場合も小さいことが判明した。一方,電気化学的挙動はタイプIII銅タンパクと同じCu^<2+>-Cu^<2+>を示し,特にN_3^-かNCS^-で橋かけした錯体では半波電位はかなり正側にシフトしており,タイプIII銅のそれに近い。 3.タイプIII銅タンパク特有の性質である反磁性が達成されるためには,複核銅(II)錯体内の各銅(II)の基底平面が同一平面にあることが,高い酸化還元電位の達成には錯体の構造がフレキシブルであることがそれぞれ重要であると推定される。
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