本研究では、南方アフリカの始生代リンポポ帯に産する色々な高変成岩(チャノッカイトを含む)の鉱物学的、岩石学的、化学的特徴の違いを調べ、チャノッカイトは後退変成(地殻上昇)過程で、剪断を受けた高変成岩(主に珪長質片麻岩)に由来する流体が関与し、岩圧より低い流体圧下で形成されたと結論した。したがって、従来指摘されていたマントルや下盤のグリーンストーン帯などからのCO_2の特別な流入は必要でない。この過程で酸素分圧やX(CO_2)がどのように変化するかを岩石中に観察される反応を用いて化学平衡論的に示した。さらに、チャノッカイトと珪長質片麻岩の両岩石中の流体包有物の充填温度、凝固温度、融解温度を測定した結果、大部分の包有物の流体は水に富んでいることを示した。一方、流体圧低下は割れ目中の鉱物の晶出などによって阻害されようとするが、地殻上昇過程であれば、割れ目の形成は継続して起こると考えられるから、結果的に流体圧は変成パスに沿って低下・上昇を繰り返すと推定される。本研究ではこの流体圧増減の1サイクルを“fluid path"と命名した。すなわち、“fluid path"の繰り返しによって、輝石の生成が低温・低圧側に拡大し、リンポポ帯北縁部に見られるような広範囲なチャノッカイト化作用を説明できる。したがって流体の起源は高変成岩(主に珪長質片麻岩)そのものに由来するもので流体組成に依存しない。また、リンポポ帯南縁部において剪断帯上盤に分布する斜方角閃石アイソグラッドでは流体包有物が様々な組成をもっていることを考えると、この“fluid path"のメカニズムはアイソグラッドを形成した斜方輝石や菫青石の水和反応の促進にも重要な役割を果たした可能性がある。一般に剪断帯に伴う割れ目の形成は、後退変成過程では流体圧低下を生じさせ、変成度を決定する重要な脱水反応や水和反応を促進すると思われる。
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