本研究の目的は、(1)元素濃度および同位体組成を多元素にわたり効率的に測定するシステムを開発すること、および(2)開発した手法を種々の地質体に適用することにある。自動粉砕装置、ケイ光X線分析(XRF)、高速液体クロマトグラフィー装置、表面電離型・ガス質量分析装置を組み合せることにより、31元素(REEを含む)の定量およびSr・Nd・硫黄同位体組成のルーチン分析が可能なシステムを開発できた。本システムにより、岩石50試料を一週間で処理可能である。またEPMAによる微量元素の定量、特に亜鉛の定量を可能にしスカルン鉱床への適用を行った。これらの成果については、平成4年度資源地質学会で発表し一部は現在Chemical Geologyに投稿中である。(2)に関しては、石炭・石油・スカルン・Mn鉱床などについて適用し、資源形成プロセスの解明を試みた。また水・土壌・植物試料などについても分析を行い、それらを用いた地球化学探査への可能性、また環境問題へのアプローチを試みた。常磐炭田地域および相馬沖ボーリング試料については、それに含まれる有孔虫や貝化石のSr同位体組成を用いて高精度で堆積岩の年代測定を行えること、砕屑物のSr・硫黄同位体組成および元素組成からは、後背地の変遷および堆積環境の復元を行えることが明らかとなった。特に、日本海拡大前後におけるテクトニックな環境変化が炭田地域の堆積物に残されている可能性を指摘することができた。また海生堆積物に含まれる硫黄同位体組成が、酸化還元の良い指標になることに注目し、北海道における中生代-新生代境界層への適用を行った結果、中生代末に火山物質による寄与が大きくなり、海洋が無酸素化したことなどを明らかにすることができた。石油については、中東および日本の試料について油田塩水とあわせ分析を行い、両者の間でSr同位体的平衡が成立しないことから互いに異なる起源を想定できること、また硫黄同位体組成も合わせて分析し、秋田と新潟地域では原油の起源物質が異なっていることなどが明らかにした。スカルン鉱床については、それに普遍的に産出する単斜輝石に含まれる微量亜鉛濃度の広域的変化を明らかにし、鉱床タイプの分類に有効であることを明らかにした。
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