研究概要 |
1.試料の採取と生成環境の解析:研究の前半では,検討すべき熱水成鉱床として鉱脈鉱床とポーフィリーカッパー紘床を想定して試料の収集につとめたが,ポーフィリーカッパー鉱床は本邦には良いフィールドがなく,一良好な試料の獲得が難しいことが判明し,研究の後半では専ら鉱脈型鉱床からの試料を検討した。その結果,本邦の菱刈鉱床を主とする若い鉱脈鉱床が,韓国・中国の金鉱床と対比されて,比較のための試料が得やすく,また地質学的情報も豊富であることが判った。 2.水素同位体測定技術の確立:様々な手法をトライアンドエラー方式により検討し,包有物の壊し方,試料のサイズ,還元反応に必要なメタル,反応温度,反応時間などを決定し,ほゞ満足できる技術を確立した。破壊はデクレピテーション法とし,サイズは40メッシュ以下80メッシュ以上,メタルはBDH社製の亜鉛を用い,反応温度は約430℃,反応時間は30分である。 3,鉱化流体の起源の解析:上述のように鉱脈鉱床を中心に,様々な地質環境・地質時代の鉱化作用について検討した。熱水の水素同位体比は鉱床によっては比較的狭い範囲に集中する場合もあるが,菱刈鉱床のようにかなり変化に富むものもある。前者の場合には,その値の大小によりマグマ水起源,海水起源,天水起源などが比較的容易に識別できることが多い。例えば韓国や中国の代表的な白亜紀生成の金鉱床などは,この手法によりかなり天水起源の水の寄与が大きいことが判明した。また,この推定は酸素・炭素・硫黄などの他の安定同位体からの成因的な情報と矛循しない。一方菱刈鉱床に代表されるような,水素同位体組成がかなり広い範囲で変化する鉱床は,少くとも二種以上の,異なる起源をもつ熱水が鉱化の場で混合していたり,また沸騰現象などを伴っていると解釈でき,新らしい知見といえる。
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