金属硫化物の機能は基本的には、クラスターサイズ、中心金属の原子価と配位不飽和度、により決定される。これらを個別にコントロールする手法として、本年度は制御された大きさの金属硫化物クラスターの形成の場としてのゼオライト空孔の利用、およびモリブデンと助触媒の結合状態を制御するために調製時におけるキレート剤の使用を試みた。 モリブデンは水溶液中ではアニオンの形で安定化するため、カチオン交換能しか有さないゼオライトを用いたイオン交換は従来不可能とされていた。我々はモリブデン部分がカチオンになるモリブデン二核錯体([CpMo(CO_3)]_2)(a)を用いてゼオライトケージ内にMo種を導入することに成功した。(a)をY型ゼオライトとともに種々の溶媒中還流したところゼオライトに担持され、EXAFS測定の結果、Mo-Mo結合を保っていることが示された。水素化脱硫(HDS)活性はMoS_2構造に由来すると考えられているがゼオライトケージ内ではこの構造の形成が制限される可能性もある。事実、(a)を担持したYゼオライト触媒を硫化処理後、300℃、50気圧でベンゾチオフェンのHDS反応に供したところ通常のMo/Al_2O_3触媒に比べ定常活性が低く、また、共存H_2Sの阻害効果が顕著に現れた。 一方、実用触媒であるCo-Mo/Al_2O_3の妥当な活性点モデルとしてCo-Mo-S相モデルがあるが、ニトリロ三酢酸(NTA)のようにコバルトとモリブデン双方に同時にキレートできるキレート剤を触媒前駆体の調製時に加えることでこの相が活性炭上では選択的に生成することが報告されている。NTAを用いて調製したアルミナ担持触媒のHDS活性を調べたところ、Mo、Coのそれぞれが単独の触媒では添加効果は認められず、Co-Moを同時に担持した際に顕著に認められ、その場合は市販のCo-Mo/Al_2O_3よりも高い活性を示した。活性点の性質はNTAを添加しないものと同じであったことから、NTA添加により活性点の数が増加したものと考えられる。
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