本研究では好熱性水素酸化細菌Bacillus schlegelii(ATCC 43741)からヒドロゲナーゼの精製を行いその性質について研究を行った。本菌体から精製したヒドロゲナーゼはその分子中に鉄およびニッケルを含む鉄ニッケルヒドロゲナーゼであった。プラズマ発光法によりヒドロゲナーゼ中に含まれる鉄およびニッケルの含量を測定した結果、鉄とニッケルの割合は7対1であることが分かった。低温下において本ヒドロゲナーゼの電子スピン共鳴スペクトルを測定すると、他の常磁性種と磁気的に相互作用している鉄硫黄クラスターにもとずくと考えられるシグナルが観測された。このことから、本ヒドロゲナーゼ中の鉄は、鉄硫黄ラクターの形で含まれていることが分かった。得られたシグナルは、これまでに報告されている鉄ニッケルヒドロゲナーゼの電子スピン共鳴スペクトルとほぼ同様のスペクトルであった。これらのことから、鉄硫黄クラスターと磁気的相互作用している常磁性種は三価のニッケルであると考えられる。また、ヒドロゲナーゼ中において、ニッケルサイトは水素の活性化反応の活性点、鉄硫黄クラスターは電子伝達体として機能していると考えられる。 本ヒドロゲナーゼの水素酸化反応および水素発生反応の比活性を比べると、前者が後者の約100倍であることが分かった。このことから本ヒドロゲナーゼはアップテイク型ヒドロゲナーゼであることが分かる。ヒドロゲナーゼ活性に及ぼす各種遷移金属塩の効果を検討したところ1mMのCu^<2+>、Hg^<2+>はヒドロゲナーゼ活性を完全に阻害したのに対し、Ni^<2+>、Co^<2+>は阻害効果を全く示さなかった。
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