研究概要 |
本研究において、平成3年に得られた研究実績の概要は以下の通りである。 1.分子が化学反応において相手分子との相互作用を最適に行うために軌道の組み替えを行うこと、さらに、このようにして作り出される軌道がそのひろがりと位相において、同形式の反応を可能にする最小の分子のフロンティア軌道と相似であることを明らかにした。この知見に基づいて、分子中の特定の構造単位あるいは原子が反応で示す局所的な電子供与能、電子受容能を定義し,それを反応性の新しい尺度としてアルケンに対する求電子的付加反応に応用することにより、実験化学者が認識し得なかった反応性の傾向を明らかにすることができた。 2.近年、新しい合成反応として5配位ケイ素化合物の求核的置換反応が注目されている。その機構について非経験的分子軌道法を用いて考察した。この系では、炭素化合物に通常みられる求核的二分子置換反応とは反応機構が大きく異なり、エネルギ-的見地からも、軌道相互作用の観点からも、6配位化学種を経由して2段階的機構で反応が進行すると考えるのが合理的であることが明らかになった。 3.トリメチレンタンおよびその一つのメチレンをヘテロ原子を含むグル-プで置換した化合物はパラジウム化合物と安定な金属錯体を形成することが実験的に報告されている。これらの金属錯体について非経験的分子軌道計算を行ってその電子構造を検討した結果、これらの金属錯体はπーアリル型の配位様式をもつ錯体と考えるよりも、メタラサイクルと考えるのが合理的であることが相互作用軌動対による可視化の観点から明らかになった。また,これらの金属錯体とアルケンとの反応について検討した結果、トリメチレンメタンとヘテロ原子で置換した場合との反応性、選択性の違いを明らかにすることができた。
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