研究概要 |
本研究においては、2つに大別されるアプローチから実験を行っている。即ち一般環系に対する環形成反応及び特異環に対する環反応性の検討である。今年度は特に後者に関して重点的に研究を行った。その中で新たに最近注目を集めているフラーレンを特異環系の1つに加えてその付加反応性を検討した。取り扱ったC_<60>、アダマンタン、スクアリン酸はそれぞれ芳香族や脂肪族として2次元及び3次元系環構造を有する興味ある骨格を持つ。アダマンタンに対しては、架橋位や橋頭位での反応性中間体を生起させ付加反応性を検討した。架橋位ではニトロンを合成しその1,3-双極性環化付加反応の特異付加配向性を前年度迄に明らかにしたので、今年度は橋頭位での反応性を検討した。橋頭位では隣接する炭素上にカルベンを発生させ骨格との優先的な相互作用によるANTI-BREDT-型の橋頭位オレフィンの生成を確認した。カルベン上の置換基に共役したフェニル基・エステル基を用いた為に、このオレフィンは室温付近でも安定に存在するという最初の例となった。結合性はイオン性とラジカル性の両方をあわせ持つ事が判明し、付加反応により3,4-ジ置換ホモアダマンタン誘導体の合成に利用された。スクアリン酸に対しては、従来法にはない親電子条件下での骨格上での炭素-炭素結合反応として不飽和シランとの反応を全般的に検討した。その結果、スクアリン酸及び不飽和シラン上の置換基の性質、ルイス酸、反応温度に依存し1,2-,1,4-付加が起こる事が明らかとなった。生成物は天然物合成に有用なブテノリド骨格に変換される事を見いだした。C_<60>に対しては、アゾ化合物や数種の1,3-ダイポール・ジエンに付加反応性のある事を確認した。最後にF原子の活用として、F版Arndt-Eistert反応を開発した。
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