研究概要 |
本年度は、ルテニウム錯体触媒に特徴的な新規炭素-炭素結合生成反応として、まずアクリル酸誘導体等の電子求引基を有するオレフィンと1,3‐ジエンあるいはアリル炭酸エステルとのカップリング反応を経る3,5‐ジエン酸誘導体の選択的合成反応を開発した。触媒としてはRu(COD)(COT)(COD;シクロオクタジエン、COT;シクロオクタトリエン)錯体が最も高い触媒活性を示し、また、2,5‐ジエン酸誘導体の副生を抑制するためにはN‐メチルピペリジン等の三級アミンの添加が不可欠である。ブタジエンあるいはクロチル炭酸メチルとN,N‐ジメチルアクリルアミドとの反応生成物が同じであること、および生成物である3,5‐ジエン酸誘導体の5位の立体配置がZであることから、いずれの反応もアンチ(π‐アリル)ルテニウム中間体を経て進行していることが強く示唆された。さらにハロゲン化ビニルと電子求引基を有するオレフィンとのカップリング反応においてもルテニウム錯体触媒が高い触媒活性を示すことを見いだした。本反応はパラジウム錯体触媒でも進行しHeck反応としてよく知られているが、本研究はルテニウム錯体触媒を本反応に用いることが可能なことを明らかにした最初の例であるとともに、パラジウム錯体触媒系では全く反応が進行しないβ‐クロロスチレン等の塩化ビニルも、本反応では適用可能であり、ルテニウム錯体触媒の有用性が示された。ルテニウム錯体触媒としては、Ru(COD)(COT)錯体が高い触媒活性を示したが、本反応ではRuCl_3・nH_2Oも同程度の高い触媒活性を示した。その他、ルテニウム錯体触媒存在下、1,3‐二置換尿素およびビシナル‐ジオール類からの脱水素を経る複素環化反応により、2,3‐ジヒドロイミダゾール‐2‐オン類の選択的新規合成法の開発にも成功した。
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