研究概要 |
[Mo_2Fe_6S_8(SEt)_9]^<3->の2電子還元体を触媒とするRC(O)SEt(R=CH_3,C_2H_5,C_6H_5)へのCO_2固定では,CO_2はMoFeSクラスタ-の骨格硫黄に求電子付加して活性化を受け,硫黄で鉄に結合したRC(O)SEtのカルボニル炭素に求核付加してRC(O)COO^-が触媒的に生成する機構を提案した.光合成細菌のピルベ-トシンタ-ゼによるCO_2固定ではフェレドキシンの強い還元力によりCO_2の極性が逆転し,アセチルコエンチ-ムAのカルボニル炭素と反応してRC(O)COO^-が生成すると考えられていることから,本研究による触媒的なRC(O)COO^-生成は光合成細菌によるCO_2固定の機構解明に鍵を与える研究である.さらに,CO_2が[Mo_2Fe_6S_8(SEt)_9]^<5->により一見求核試薬として反応することが明かとなったために,基質としてCH_2=CHC(O)OCH_3を用いて同一の触媒でCO_2固定を行なうと,H^+とCO_2が競争的にCH_2=CHC(O)OCH_3に付加して,一連のXCH_2CHYC(O)OCH_3(X,Y=CO_2,H)が生成した.これらの生成物の内,特に( ^-OOC)CH_2CH(COO^-)C(O)OCH_3はCH_2=CHC(O)OCH_3の炭素ー炭素二重結合にCO_2が1,2ー付加して生成しており,末端のCO_2はCH_2=CHC(O)OCH_3に求核付加し,一方β炭素に結合したCO_2は求電子付加し反応が進行し,従来にはない反応形式であることが明かとなった.また,以前私が見いだした[Ru(bpy)_2(CO)_2]^<2+>を触媒とする電気および光化学的CO_2還元の活性中間体である[Ru(bpy)_2(CO)(COO)]の単離およびX線構造解析に成功し,CO_2が炭素原子のみでルテニウムに結合したη^1型の極めて珍して錯体であることを明らかにし,CO_2還元によるCOとHCOOH生成機構を初めて統一的に確立した.現在,さらにCO_2分子の極性を逆転させて,炭素ー炭素結合生成を伴った新しい二酸化炭素固定反応の開発のためにη^1ーCO_2錯体を用いてCO_2骨格の反応性の検討を行なっている.
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