ラマン散乱法は短時間における分子の相対的な位置の変化を鋭敏に捉えることができるため各種水溶液中での水分子の特性を解析することが可能である。本研究においてはコロイド粒子間の認識会合に伴う粒子表面の水和層の特性変化をラマン法により検討することを目的とした。まずコロイド粒子表面や高分子水溶液中における水の特性変化をみた。ポリマ-ラテックス粒子懸濁液や親水性高分子水溶液中においては、水のOH伸縮振動に由来する2つのブロ-ドなピ-クのうち、低波数(320cm^<-1>)のピ-クの強度の高波数(3400cm^<-1>)側のピ-ク強度に対する比が、バルク水での値に比べて増加していることが判明した。これは微粒子や高分子への水和に伴い、水の構造特に水素結合により形成される水分子のネットワ-ク構造の変化に由来するものと考えられる。さらに粒子の認識会合に伴う水の粒子間へのとり込みの影響をみるために、まず高分子ヒドロケル中の水のラマンスペクトルを検討した。その結果、狭い空間に水がとじこめられるために、上述の水分子のOH伸縮振動に由来するピ-クの比がバルクの水に比べかなり小さくなった。しかもその傾向は固濃度の親水性高分子水溶液系でのものに比べかなり顕著であった。偏光法を用いて水分子の集合的な運動モ-ドに由来する敬乱強度をとり出してみるとさらにこの傾向が明確となった。上で述べた高分子の水和水とは異なりゲル中の水は単に空間的にとじこめられているものであり、その分光学的性質がバルク水と異なることは、粒子間会合による「隙間の水」の形成によっても同様の結果が得られるであろうことを強く示唆している。
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