DNAに結合して転写プロセスを規制するDNA結合タンパク質の構造解析より、転写因子のDNA結合ドメインが限られた幾つかの構造モチーフに分類できることが示唆されている。その一つにLeu残基が一次構造の7残基毎に現れるロイシンジッパーがある。これにより、2本のヘリックス鎖が会合し、隣接して存在する塩基性残基に富んだフラグメントとDNAとの結合が促進されると考えられている。本研究では、2本のαヘリックス鎖が会合した超二次構造を合成ペプチドを用いて構築するため、鋳型分子として環状オクタペプチドを用い、これに2本の12量体ペプチドを結合した。これにより、環状オクタペプチドの骨格平面の片側に2本のへリックス鎖を集められるだけでなく、環状オクタペプチドとCa^<2+>イオンとの錯体形成によりコンホメーションが変化するようなアロステリック効果を有するタンパク質モデルを合成できると期待された。Ca^<2+>と錯体を形成する環状オクタペプチドとしてcyclo(Leu-Sar-Lys(Z)-Sar)2(C8KS)とcyclo(Leu-Sar-Lys(CHO)-Sar-Leu-Sar-Glu(OBz1)-Sar)(C8KE)を合成した。いずれの環状オクタペプチドもCa^<2+>と錯体を形成することが示された。環状オクタペプチドの保護基をはずし、線状12量体ペプチド、Boc-Glu-Napala-Leu-Aib-(Lys-Aib-Leu-Aib)2-(Napalaはナフチルアラニン)、をC8KSに結合したF12-C8KSと、Ac-Glu-Trp-Leu-Aib-(Lys-Aib-Leu-Aib)2-と-(Leu-Aib-Glu(OMe)-Aib)2-Leu-Aib-Lys-Aib-Ant(Antはアントリル基)とをC8KEに結合したCH2を合成した。緩衝溶液中でのこれらのペプチドのCDスペクトル測定や、線状ペプチドの末端に導入した蛍光プローブ間の励起エネルギー移動等を測定する事により、環状オクタペプチドに結合した2本のヘリックス鎖は会合しており超二次元構造を形成することが示唆された。CH2にLambdaDNAを加えたところ、Trpからの蛍光が消光され、アントリル基の長波長側の発光が少し強くなったことから、CH2はDNAに結合することが示された。一方、環状オクタペプチドに1本のペプチド鎖を結合したものや、Ca^<2+>イオン存在下ではDNAとの相互作用は観測されなかった。
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