1. フィブロインH鎖、L鎖遺伝子の同調的転写制御機構の解析 両遺伝子の5'上流域に見い出された3箇所の相同性の高い配列部位の一つであるL2配列をプローブとしてカイコ後部絹糸腺のλgt11cDNA発現ライブラリーをスクリーニングして、1クローンを得た。このクローンの塩基配列を決定した結果、翻訳反応に関わる延長因子EF1γと相同性の高いタンパク質をコードする遺伝子に相当することがわかり、その生物学的意味を検討する必要が生じた。 2. フィブロインH鎖、L鎖タンパク質の結合部位の解析 両鎖遺伝子の構造から予測されるジスルフィド結合部位をタンパク質化学的に確認することを目的として、H鎖中のシステイン3残基を含むC末領域のペプチド、L鎖中の第6エキソン由来のシステイン残基を含むペプチドを合成し、それぞれに対するポリクローナル抗体を作製した。次に、H-L結合を保ったフィブロインをキモトリプシン分解し、可溶性ペプチド成分をFPLC逆相カラムで分画し、その中から両抗体が同時に反応する成分を検出し、さらに精製を行った。現在、このペプチドの構成を分析している。 3. Nd変異の遺伝子およびタンパク質レベルの解析 フィブロインを分泌できないNd変異はこれまでの遺伝学的解析の結果、H鎖遺伝子の変異であることが推定されているので、H鎖の構造的異常を調べた。ウェスタンブロット解析では、Nd変異カイコの後部絹糸腺中でL鎖と結合したH鎖は検出できず、H鎖は部分的に分解を受けた状態で組織中に蓄積していたが、これらの分子に対してH鎖のC末領域に対する抗体は反応しなかった。遺伝子レベルではH鎖C末領域の情報は保持されており、mRNAサイズにも異常は検出されないことから翻訳の異常またはタンパク質の高次構造レベルの異常が推定された。
|