研究概要 |
野菜軟腐病菌Erwinia carotovoraErのペクチンリアーゼ遺伝子は本研究室の西田らによりクローン化された。本研究でペクチンリアーゼ遺伝子の構造と発現調節機構を解明するために,その全塩基配列を決定した。ペクチンリアーゼ遺伝子は942bpで,これよりペクチンリアーゼは314個のアミノ酸残基よりなり,分子量約33,700Daであると推定された。本酵素と他のペクチン質分解酵素とのアミノ酸配列における相同性を調べた結果,8つの領域でアミノ酸配列の相同性が見られた。領域IIとIVでは,Aspergillus nigerのペクチンリアーゼと高い相同性が見られた。一方,領域VIIIでは,Erwinia属に相同性の高いアミノ酸配列がみられ,Aspergillus nigerと相同性がなかった。ペクチンリアーゼ遺伝子1の5'-上流域の塩基配列には,-35,-10領域,SD配列が推定され,パリンドローム様な領域が2ヶ所見られた。しかしながら,大腸菌のSOSレギュロン遺伝子のオペレーターに見られる共通配列(L'exA結合部位)は見られなかった。ペクチンリアーゼ遺伝子のデレーションクローンを作成し,E.carotovoraErのペクチンリアーゼ活性を低下させた変異株に形質転換し,その発現(lacZと逆方向)を調べた結果,-140と-74の間で活性の低下が顕著にみられた。この結果,ペクチンリアーゼ遺伝子の上流域-74から-140付近の領域がプロモーター領域であると推定された。つぎに,(lacZと順方向)の発現を調べると,-150と-74の間で活性が低下し,-74と-26の間で活性が上昇するという変則的な変化が得られた。このことより,從来のSOS応答のようなリプレッサーによる制御ではなく,mRNAのステム構造の形成が関与するといった構造上の変化によるものと考えられ,ペクチンリアーゼ遺伝子上流域に見出されたパリンドローム構造が関与するものと推定された。ペクチン酸リアーゼ遺伝子の発現制御機構,ペクチン酸リアーゼの分泌機構は今后の研究課題である。
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