研究概要 |
多様の対象物のエナンチオ制御を可能にする多目的キラル合成素子の開発と活用という観点から,ビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を持つ2種の3環性キラルエノン体を合成した.すなわち,シクロペンタジエンヘの水酸基の導入とこれに対するリパーゼを用いる不斉アシル化ならびに対応するラセミアセテートをリパーゼ存在下に不斉分割することによって,シクロペンタジエノンのキラルシントンとして機能する3環性エノン体の両対掌体を光学的に純粋に得た.また両者を相互変換するエナンチオメリゼーション法も確立した.一方,p-ベンゾキノンとシクロペンタジエンとのディールス・アルダー付加体から得られるメソ型対称性を持つエンド・ジオール体をリパーゼの存在下に有機溶媒中でアシル化することによって完全なエナンチオ特異性でキラル非対称化させ得ることを見出し,さらにパラジウム存在下のエノン体形成法を見出して,シクロヘキサジエノンのキラルシントンとして機能する3環性エノン体の任意の対掌体とする手法を確立した.これらの2種のキラル合成素子はカゴ状の立体的にかたよった構造を持つことからコンベックス面からの選沢的な修飾を可能にしており,さらに加熱によってシクロペンタジエン部を放出し,マスクされていた2重結合を再生することを可能にしている.これらの特徴を反映させることによってモノテルペンから複雑なポリオキシ化天然物にわたる生物活性天然物の完璧なエナンチオ制御合成を達成することが出来た.すなわち,シクロペンタジエノンキラル素子からプロスタグランジンおよびカルボサイクルヌクレオシドの中間体,α-およびβ-キュパレノン,ゴニオミチン,エキレニン,エストロン,フィゾスチグミン,フィゾベニン,およびアファノルフィンの,そしてシクロヘキサジエノンキラル素子からカルボン,コンデュリトール,α-アミノアジピン酸,およびユーティポキシドのエナンチオ制御合成をそれぞれ達成した.
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