クモ毒ポリアミントキシンはその特異な構造から受容体上で一定のコンホ-メイションをとることが予想され、かつこのコンホ-メイション維特には金属イオンの関与が考えられた。この様な考えに基づきクモ毒およびその誘導体につきNMRスペクトル測定を金属の存在下、非存在下で行った。結果は予期に反し、顕著な差は見いだされなかった。 一方、クモ毒を用いるアフィニティ-クロマトグラフィ-によりウシ脳からクモ毒に特異的に結合する蛋白質の存在が確認され、この蛋白を抗原として作成したモルモット抗体はクモ毒同様に脳神経組織におけるグルタミン酸による神経興奮を阻害した。さらにラット胎児より調整した海馬培養細胞はグルタミン酸刺激に応答して細胞内カルシウムを上昇させるが、クモ毒の存在下ではグルタミン酸アゴニストのうちNMDAによるカルシウム上昇のみを阻害することがわかった。 以上の実験結果をふまえ、再度ウシ脳よりクモ毒結合蛋白を単離してアミノ酸配列解析を行い、アミノ末端から13残基目まで確認することができた。この配列は筋肉中から単離されているカルレチクリンと同一であった。カルレチクリンは筋肉収縮時にカルシウム動員に関与する蛋白として知られている。クモ毒結合蛋白はアミノ酸組成、pIからカルレチクリンと同一ではなく、かつ近年明らかにされたグルタミン酸の直接の受容体蛋白でもない。したがって、クモ毒の作用部位はグルタミン酸受容体に直接カップルしているカルシウム調節蛋白の機能を阻害している可能性が極めて高いことがわかった。
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