研究概要 |
大腸菌のアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT)および基質アナログ2-メチルアスパラギン酸(2-MeAsp)との複合体、AspAT:2-MeAsPの高分解能(1.8A)X線構造解析を行なった。データは高エネルギー物理学研究所の放射光を用い、巨大ワイセンベルグカメラで収集した。 AspATは分子量44000のサブユニット2個からなる2量体で、2回対称を持っている。各サブユニットは2つのドメイン(大ドメインと小ドメイン)からなる。 AspATおよびAspAT:2-MeAspの構造解析から、基質結合時にこの酵素は小ドメインが大きく動き活性部位を閉じることがわかった。また活性部位の詳細な構造を決定できたので、反応の立体特異性の機構および反応の律速段階である基質からのα-プロトンの引き抜きまでの反応機構が明らかになった。また大腸菌のAspATは高等動物AspATと異なり、アスパラギン酸だけでなく芳香族アミノ酸に対してもかなりの活性を示す。 AspATの活性部位の構造を利用して、Trpを例にモデルフィッティングを試みた。Trpのインドール環はArg292の側鎖、lle17,Leu18と相互作用をしており、芳香族アミノ酸に対する活性を説明できた。 Asp222は活性部位に存在する補酵素ピリドキサール-5'-リン酸(PLP)のN原子と静電相互作用をする。Asp222を中性アミノ酸に変えると失活するがGluに変えても30%の活性を保持する。つまり、Asp222はN原子上に正電荷を固定させる役割を持っていると推定される。これを証明するために変異型AspAT、 PLPのN原子をメチル化したN-methylated PLP(N-MePLP)とAsp222Alaを組み合わせ、Asp222(N-MePLP)のX線解析を行なった。 N-MePLPの回りのアミノ酸残基の配置は野生型の場合と大きな違いはなかったが、N-MePLPの配向は野生型とかなり異なっていた。それでも活性が回復することからPLPのN原子上に正電荷が局在化することが反応にとって重要でありAsp222はその役割を担っていることがはっきりした。
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