補酵素がピリドキサミン5′-リン酸型の大腸菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(PMP-AspAT)について、高分解能X線構造解析を行った。回折強度データは高エネルギー物理学研究所の放射光を用い、巨大ワイセンベルグカメラで収集した。AspATは分子量44000のサブユニット2個からなる2量体で、2回対称軸を持っている。PMP-AspATの全体構造は、すでに構造決定した補酵素がピリドキサールリン酸でるAspAT(PLP-AspAT)と同じopen型であった。PMP-AspAT・succinateの全体構造は、PLP-AspAT・2-methylaspartateの構造とよく似ており、PMP-AspATもPLP-AspATと同様に、基質結合時にopen型からclosed型に分子全体が大きなコンホメーション変化を起こすことが明らかになった。基質を認識するArg292はopen型のPMP-AspATでは内側を向いており、PLP型とは異なっていた。PMP-AspAT・glutarateの全体構造は、予想に反してopen型であった。基質阻害剤であるglutarateは、活性部位の人口付近に存在し、closed型のPMP-AspATのsuccinateの結合様式とは大きく異なっていた。このことは、PMP-AspATとC_5基質である2-oxoglutarateの複合体は溶液中でopen型とclosed型の平衡ににあり、open型の複合体の方がより多いとの分光学的実験の結果と一致する。またこれはopen型AspAT複合体の3次構造決定の最初の例である。活性部位のPLPのO3と相互作用している、Asn194をAlaで置換したAsn194Ala、Asn194とTyr225を置換した2置換変異型酵素Asn194la+Tyr225PheのX線結晶構造解析を行った。失われたO3とAsn194の水素結合は、新たに水分子が入ることにより回復されていた。これがAsn194Alaが活性をかなり維持している理由である。また2置換変異型酵素はほとんど失活しているが、これはO3とTyr225の水素結合が失われ、O3上の負電荷がピリジン環内に流れ込み、シッフ塩基のpKaを上げたためである。これらの変異型酵素の全体構造は野生型と同じで、活性部位の構造も変異部分を除いて野生型と同じであった。
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