研究概要 |
コリシンE3は大腸菌Colプラミスドが作る蛋白質で、C末端のT2Aドメインの持つヌクレアーゼ活性でリボソームを失活させる。プラスミドは、T2Aに対する特異的阻害蛋白質ImmE3を作って宿主を保護する。配列相同性の高いE3とE6は、T2A-Imm間特異性が異なるため、ColE3を持つ菌とColE6を持つ菌は互いに殺しあう。このT2A-Imm結合特異性構造を遺伝的、物理化学的に解明することを目的とした。 1.コリシンE3、E6のImm蛋白質に対する特異性決定部位の同定:E3とE6のT2Aドメインをいくつかに区切るように、制限酵素部位を遺伝子上に導入し、それぞれをE3とE6とで置換して、ImmE3あるいはImmE6との組合せて発現させ、T2A-Immがミスマッチであるほど致死性が高いという基準で各特異性決定領域を限定した結果、E3、E6とも、481、483、490、496、499位がその候補に絞られた。更にE3に関してその一つずつを置換して致死性の程度を調べ、Pro481とLys496が協同して特異性を決定していることが解った。 2.コリシンE3のヌクレアーゼとしての活性中心基の同定:E3は配列のみから活性中心を推定できない。他の加水分解酵素の類推から、グルタミン酸(E)或いはアスパラギン酸(D)が一般酸塩基触媒になっていると考え、その部位は、電荷をなくす置換(E→グルタミン,D→アスパラギン)も、E/D置換も許容しないと想定した。E3とE6で保存されている10個のE,Dに関してこの置換を施し、いずれの置換でも失活する部位、Glu517を活性中心と同定した。この部位の変異体はin vitroのリボソーム失活活性をも失っており、特異性部位と活性部位が区別できることが解った。 3.NMRによるImm蛋白質の立体構造解析:各種の安定同位体標識ImmE3、ImmE6を調製して、^1H-^1H、^1H-^<15>N-2次元NMRスペクトルを測定し、ペプチド鎖に沿ったNMRシグナルを帰属した。更にImmE3に関してジスタンスジオメトリー法により立体構造を決定した。いずれの蛋白質も4本鎖逆平行βシートを主要モチーフとし、特異性決定基は全てその親水面に側鎖を突き出していた。この構造がT2Aを識別していると推定される。
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