本研究では、原子炉内実験および原子炉外実験により、核融合炉融体トリチウム増殖材料として有望な溶融リチウム一鉛共晶合金(17Li-Pb)の化学的挙動、特にそのトリチウム挙動を測定した。本研究の成果は次のようにまとめられる。 1.溶融17Li-Pb合金中のトリチウム挙動は合金組成のわずかな変化や合金中に含まれる不純物濃度に大きく依存することが考えられたので、試薬級の金属リチウムと鉛から直接溶融混合することにより17Li-Pb合金製造を行った。さらに製造した試料の結晶構造・共晶組機・遷移金属不純物濃度・融点をXRD・SEM・原子吸光分析・DSCにより測定し、製造された試料が十分に高品質であることを確認した。 2.中性子照射により溶融17Li-Pb合金中で生成し放出されるトリチウムの化学形は主としてHTやT_2などの水素分子の形であることを確認した。また世界ではじめて、溶融17Li-Pb合金中のトリチウム拡散係数を中性子高温照射条件下で高精度に測定した。 3.溶融17Li-Pb合金中からパージガスへのトリチウム放出における総括物質移動係数を測定した。総括物質移動係数はパージガス中水素分圧の増加に伴って増加し、10^3Pa以上の水素分圧下においてはトリチウム放出は溶融合金内液境膜拡散によって律速されると結論した。 4.安全評価およびトリチウム経済の視点から極めて重要である、溶融17Li-Pb合金と接融する構造材料壁中のトリチウム透過における物質移動係数を測定し、それが2次側パージガス中の水素分圧に大きく依存することを確認した。また構造材料壁表面に形成される酸化被膜によりトリチウム透過を抑制できること、特にステンレス鋼の場合に安定に形成されるクロム含有酸化物被膜がトリチウム透過バリヤーとして有望であることを結論した。
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