1.サルモネラの菌体あたりの鞭毛数は細胞分裂を繰り返しても一定に保たれていることから、鞭毛形成は細胞分裂と共役して行われていると予想される。そこで鞭毛新生と細胞分裂周期との相関を解析する目的で、野生型サルモネラに鞭毛染色をほどこして光学顕微鏡観察を行い、鞭毛数と細胞長の関係を解析した。その結果、鞭毛新生は細胞周期を通じて連続的に起こるのではなく、隔壁形成直前に特異的に起こっていることが明らかになった。この共役が鞭毛遺伝子の発現の調節によって制御されている可能性を検定するために、鞭毛レギュロンの負の転写調節因子であるアンチ・シグマ因子の突然変異体における鞭毛形成を同様にして解析した。その結果、この突然変異体では鞭毛形成が細胞周期を通じて連続的に起こっていることが判明した。したがって、鞭毛形成の細胞分裂との共役は、アンチ・シグマ因子による鞭毛レギュロンの転写の負のフィ-ドバック機構によって制御されていると結論された。 2.細胞分裂に関する温度感受性突然変異体を非許容温度で培養したときの鞭毛形成について上と同様にして解析した。用いたdnaE突然変異体は高温でDNAが阻害されて隔壁形成ができず繊維状の細胞となるが、このとき鞭毛形成も停止し、鞭毛数の増加は見られなかった。この鞭毛形成の停止が鞭毛遺伝子の転写の阻害による可能性を検定するために、各鞭毛オペロンの転写量を測定した。その結果、鞭毛遺伝子の転写量には高温での培養と低温での培養との間で著しい差は見られず、高温でも鞭毛遺伝子の転写が行われていることが判明した。したがって、細胞分裂が阻害されたときの鞭毛新生の停止は、アンチ・シグマ因子による鞭毛遺伝子の発現の阻害によるのではなく、細胞表層の構造異常に起因する鞭毛新生場の異常によるものであると推定された。
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