研究概要 |
ヤエナリ培養細胞は生長に伴って耐冷性が変る。生長初期の若い細胞は低温に極めて敏感で0℃2日間の低温処理で死滅するが、定常期には低温耐性を獲得し0℃5日間の低温処理後も70%以上の細胞は生存できる。細胞生長に伴って耐冷性が増加するとき液胞膜H^+-ATPaseの低温安定性が増加した。生長初期の細胞を低温処理すると本酵素は12時間で完全に失活するが、定常期の細胞では0℃3日後も65%の活性を維持した。低温による酵素失活は0℃24時間以内は可逆的で、細胞を常温にもどすと1時間で完全に活性を回復する。本酵素のサブユニットに対する抗体を用いて低温失活と活性回復におけるサブユニット構成の変化をしらべた。その結果、酵素失活は液胞膜疎水領域に結合している膜セクター(16kDa)からPeriphiralセクター(68,57,42,38,37,32kDa)が一団となって細胞質中に遊離する為であることがわかった。また、活性回復過程ではPeripheralセクターが速やかに膜上に再構築されることが明らかとなった。 生長段階の異る細胞から調製したプロトプラストについて低温顕微鏡と画像解析装置を用いて低温処理中の細胞質pHをレシオ画像から計測した。その結果、生長初期の若い細胞では細胞質のpHは低温処理後すみやかに低下するのに対して、定常期の細胞では長時間安定に維持された。Indo-1を用いて上記と同様に画像解析により細胞質カルシウム濃度の変化を測定すると、若い細胞では低温処理1時間以内で急激な濃度上昇が認められた。以上の実験から、液胞膜(H^+-ATPaseの低温失活と細胞質イオン環境の変化が低温傷害に重要な役割を持つことと、本酵素の性質が植物の低温耐性機構に密接に関連していることが示された。
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