1.脂質転移タンパク質および相同タンパク質の機能 脂質転移タンパク質(LTP)はin vitroで生体膜から他の生体膜へ脂質を輸送する活性のあるタンパク質として單離されたが、in vivoでのLTPの挙動を調べると、その役割は否定的である。LTPは細胞の膜間に分布せず、植物組織の表層に多く見出され、細胞壁内に蓄積する。ヒマ植物のLTPは発芽期の胚乳、子葉、胚軸、発熟期の種子および果実で遺伝子発現し、子葉や果実の表層では、細胞壁内に蓄積するが、子葉の内部と未登熟種子では、ミクロボディー様の高密度果粒中に局在した。後者ではLTPを含む高密度顆粒が、次第に、液胞内に取り込まれ集合体をつくって蓄積した。LTPは脂肪酸およびアシルCoA結合能があり、植物体の表層に分布するので、クチンやワックスの合成素材の脂肪酸モノマーの輸送にはたらくと想定され、われわれも、UV照射により葉表皮のワックスを増加させると、ワックス近くにあるLTP量が増加するところから、上記仮説を支持するが、一方、高密度顆粒内に集まるLTPの意義については未解決である。 2.脂質転移タンパク質および相同タンパク質遺伝子のクローニング ヒマLTPには器官特異的なイソ型A〜Dがあり、子葉のLTP-CのcDNAをプローブとして、イソ型のゲノム遺伝子をクローニングし、プロモーター構造の比較から、器官特異的なイソ型の発現調節の解明をめざした。PCR法により、LTP-CのゲノムDNAのイントロン構造を明らかにしたが、上流のプロモーターの單離は未だ成功していない。ゲノムライブラリーを作成し、いくつかのクローンを得、解析中である。 一方、LTP-CのcDNAを用い、LTP中の8個のシステインをセリンに変換し、融合タンパク質として大腸菌で発現させ、LTPの脂肪酸結合に果すシステイン基の役割を検討中である。
|