研究概要 |
ハプトネマは,6本または7本の単体微小管と小胞体から構成される鞭毛状の構造で,黄色植物門ハプト藻綱の藻類だけに存在し,他のいかなる生物群でも存在が知られていない特異なオルガネラである。一般に基物に付着する装置であると信じられるが,最近捕食作用にも重要な役割を果たしていることが明らかとなった.本研究は,ハプトネマのもつ役割を構造と機能の二つの側面から解明することを目的として実施した。まず,Chrysochromulina属の藻類を広く採集,培養して捕食作用能の有無を調査した.その結果,本研究を開始する前にわかっていたChrysochromulina hirtaのほかに,新たに4種が捕食作用を営むことが明らかになった.これらのうち,C.ericinaについては明らかに餌粒子の獲得にハプトネマが関与していることが明らかとなった.次に粒子獲得の詳細を明らかにするためにC.hirtaとC.spiniferaを検体として,ハプトネマによる粒子捕捉と食作用の過程を現象的に正確に把握することを目的として,高感度ビデオカメラ装置と高速度ビデオ撮影装置(現有設備を使用)によって記録した.また,細胞が粒子を捕捉して運搬する過程を微分干渉蛍光顕微鏡(設備備品として購入)を用いて観察した.「えさ粒子」としてはラテックス蛍光ビ-ズを用いた.その結果,ハプトネマによる捕食作用は一連の異なる現象からなり,それらが一定の順序で連続して起こることで達成されていることが明らかになった.すなわち,えさ粒子のハプトネマへの付着,粒子のparticle aggregating center(PACと命名)への集積と粒子塊の形成,ハプトネマ先端への粒子塊の輸送,ハプトネマの屈曲による粒子塊の細胞表面への輸送である.C.hirtaではこの一連の仕事が繰り返して行われることで捕食が継続して行われていた.C.spiniferaではハプトネマのほかに,刺状の鱗片や鞭毛の1本が粒子の捕捉に関与していることも明らかになった.
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