研究概要 |
ハプトネマは全生物界のなかでハプト藻にのみ存在する特異な細胞構造であるが,その存在意義についてはほとんど解明されていなかった.ハプト藻は海洋ナノプランクトンの大部分を占め,基礎生産者として極めて重要であるにもかかわらず,研究対象となることが少ない生物群である.本研究では,ハプト藻最大の属であるChrysochromulinaを対象に,ハプトネマの構造と機能について可能な限り基礎的な情報を蓄積することを目標に実施し,以下の知見を得た.1.食作用過程の観察結果を解析した結果,ハプトネマには粒子を付着し,これを輸送する機構がある,捕獲された粒子はなんらかの機構で接着され大きな集塊を形成する,輸送の方向とその間隔は時間的に制御されている,輸送が終了すると屈曲を生じるなど,多くの現象が極めて複雑に制御されたものであることが明らかになった.2.ハプトネマは小胞体に包まれた単体の微小管からなるが,これらが非対称に配列し,他の細胞構造,特に鞭毛装置に対して唯一の絶対配列を有することが明らかになった.3.ハプトネマの屈曲は鞭毛装置の左基底小体の存在する方法に生じること,またコイリングはその反対の向きに生じることが明らかになった.このことから,構造の絶対配列とハプトネマの運動の方向とは密接に関係していることが分かる.4.ハプトネマのコイリングを誘起する機構について調査した結果,Ca^<2+>の外界からの流入によることが明らかになった.コイリングはCalcium-induced calcium release(CICR)阻害剤により阻害され,また促進剤により誘発されることから,Ca^<2+>の流入によって細胞内のCa^<2+>プールからCa^<2+>が放出され,これによってコイリングが起こるという二段階の機構によって生じていることが強く示唆される結果を得た.
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