研究概要 |
動物は卵と精子が受精する事により発生を開始し、分化してゆく。この受精と云う事が刺激になって、卵はそれまで停止していた減数分裂を再開する。受精の際、卵は膜で蓋われているために精子はその膜を破壊して侵入しなければならない。また受精により卵が減数分裂を再開する事は精子からの情報が卵に伝えられた結果引起こされると考えられ。精子が卵膜を如何にして壊すのか、また精子の情報を如何にして卵に伝えるのか、まだ明らかではない。 受精の際、精子は卵の表面で先体反応を引き起こし、先体胞中にあった物質が放出される。ムラサキイガイ(Mytilus edulis)の先体蛋白質には卵膜を溶かすライシンと卵の減数分裂を再開させる減数分裂誘導因子の活性がある事が分かった。そこで私はこれらの蛋白質を単離・精製し、性質、関係を明らかにする目的で実験を行なった。 ムラサキイガイの精子先体中のほぼ全ての蛋白質に相当すると考えられる11種類の蛋白質(M0-M10と命名した)を逆相HPLCを用いて単離・精製した。ライシンと減数分裂誘導活性はM0からM7までにあり、M8-M10にはなかった。M0-M10の内主要な蛋白質はM3,M6,M7であったので、これらの構造を決定した。その結果これらは全てC-型レクチンの構造を持っていることが分り、また実際単離した卵膜に結合することも分った。更にcDNAの構造解析からM7はPrepro-proteinの形で合成されるであろう事が判明した。一方活性を持たないM8の構造を決定してみるとC-型レクチンとは全く無関係の構造を持っていることも判明した。また部分構造から見てみると、活性のあるM0-M7は全てC-型レクチンの構造をしているらしいことが明かとなった。従って、ライシンは卵膜を構成している糖或いは糖蛋白質に結合し膜の構造を破壊し、またレクチンとしての活性が卵内のカルシウム濃度を上昇させることにより、減数分裂を誘導すると考えられた。
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