研究概要 |
ザリガニの前脳内に存在する3対のスパイク非発火型の巨大介在ニューロン(NGI)は、視覚刺激に緩電位応答し,動眼ニューロンの前運動ニューロンとしての機能をもつことがこれまでに明らかにされていたが、本研究はこのようなニューロンについてさらに解析を行い、以下のような成果を得た。 NGIは、暗黒中で体を細胞体と同側へ傾けると、脱分極性の緩電位応答を、反対側へ傾けると、過分極性緩電位応答を示す。同側の平衡胞を除去した個体では、反対側へ傾けた場合のみに過分極性の緩電位応答をしめすが、反対側の平衡胞を除去した個体では、同側へ傾けた場合のみに脱分極性の緩電位応答を示す。両側の平衡胞を除去した個体では、NGIはなんら応答を示さないが、上方に光源がある場合には、同側及び反対側へ傾けると、NGIはそれぞれ脱分極性緩電位応答及び過分極性緩電位応答を示す。光刺激に対する応答の振幅は体の傾きに対する応答(重力刺激に対する応答)の振幅と関連して変動する。一方、水平に保たれた正常個体では、NGIは歩脚の上げ下げに対してほとんど応答しないが、両側の平衡胞を除去した個体では、暗黒中で、同側及び反対側の歩脚を上に持ち上げると、NGIはそれぞれ脱分極性緩電位応答と過分極性緩電位応答を示す。 これらの結果は、1)NGIは複眼、平衡胞及び歩脚の自己受容器から流入する感覚情報を統合し、体平衡を駆動する運動ニューロンへの出力を形成すること、2)左右から流入する同一または異なるモダリティの感覚入力の相互作用によって、NGIの方向選択的応答がより明瞭になることなどを明示している。なお、多種感覚入力の統合と出力形成機構に関連して、コオロギの感覚、運動系でも種々の実験を行い、それぞれ興味深い成果を得ることができた。
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