ペプチド性神経ホルモンの遺伝子の発現は、神経ホルモン産生ニューロン(=神経分泌細胞)の生理的な活動状態を反映している。神経分泌細胞における神経ホルモン遺伝子の発現は、外部環境や体内の生理的な状態の変動により変化している可能性があるので、それを明らかにすることによって、魚類も含めた下等な脊椎動物で、まだよく分かっていない神経ホルモンひいては神経分泌細胞の生理的役割が解明できると考えられる。 そこで、平成5年度は、平成3年から5年にわたって採取したサケ科魚類の脳試料を材料として、これまでにcDNAの塩基配列を明らかにしてきた神経葉ホルモンのバソトシンとイソトシンおよび生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の遺伝子の発現を対象に、それらの季節変動および母川回帰時の変化を解析することを試みて、以下の結果を得た。 1.In situ hybridization法を用いて、アンドロゲンがGnRH mRNAの発現の制御に関わっているかを雌雄のサクラマスで調べ、雄の視索前核ニューロンで、個々の細胞当たりのmRNAの量に有意な影響は見られないが、ハイブリダイゼーション陽性細胞の数は増えていた。 2.雄のシロザケ視床下部のバソトシンmRNA含量が、湾口、湾内よりも母川に遡上してきた個体で多いという傾向が、平成4年および5年の大槌湾・大槌川の試料で見られた。雌では逆に母川に遡上した動物でバソトシンmRNA量が低下していた。平成5年の海水から淡水への移行実験でも同様の傾向が見られた。 3.ホルモンmRNAの効率的な定量方法の開発に着手し、96穴のマイクロプレートを用いる方法が有望であるという結果を得たので、実用化に向けての検討を開始した。
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