組織形態学的概念である染色体を分子遺伝学的概念であるDNA塩基配列として理解する目的でYAC(酵母人口染色体)法が開発されているが、本年は、この方法をイネに応用するための基本的手法の調査を行なった。 イネ胚芽、あるいはイネ若葉から調整したプロトプラストを0.8%低融点アガロ-スゲルに包埋しProteinase K処理した後、パルスフィ-ルドゲル電気泳動法(PFGE)を行なったところ10Mb以上の巨大DNAが分離できた。一方、アガロ-スに包埋した巨大DNAをレア-カッタ-であるNot I、Pac I、Sse 8387Iで切断し、PFGEで分離した。その結果それぞれのレア-カッタ-に対応した数十〜数百kbにわたるDNAの分布がアガロ-スゲル上に認められた。これらのDNAをnylon membraneヘブロッティングすることを試みたところ不完全ながら、数百kb程度の巨大DNAでもブロット可能であることが判った。このブロッティングの効率化は今後の課題であるが、現時点で使用可能な方法を用いてブロッティングしたnylon membraneに対し、プロラミン、グルテリン等の主として貯蔵タンパク質のcDNAを放射性リンー32Pで標識したプロ-ブを用いてサザンハイブリダイゼ-ションを行なった。その結果、それぞれのプロ-ブに対し、アガロ-スゲル上の特定領域にプロ-ブがハイブリダイズすることが認められた。貯蔵タンパク質遺伝子はプロラミン、グルテリンについて多重遺伝子族を構成していることが知られているが、本研究で得られた結果は、これら遺伝子はイネゲノム上の限定された領域に集まっていることを想像させる。得られたサザンハイブリッドの結果は不鮮明であるため、明確に結論するためには更に詳細な検討を要する。
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