1.イネ小穂の環境ストレス応答反応の性質をこれまでの当研究室の成果に基ずいて検討した。小穂構成器官の形成反応を、イネ多雌ずい性突然変異体REDS-1とその原品種レイメイを用いて顕微解剖学的方法により比較観察した。通常栽培下においてREDS-1の小穂内器官の形態は、レイメイとは全く異なり、形態的異常を多発した。これらの異常は環境ストレス反応に見られる雌ずい増生と同様の性質のものであったが、REDS-1の特異な点として、雄ずいの増生、稔性花粉と稔実果形成を見た。環境要因の影響として、高温とエチレンの処理を穎花分化期に行ったところ、両系統とも小穂内器官の雌性化傾向が顕著になった。 2.水稲多収品種と標準的品種の穂および小穂の構造発達を、主としてクライオ走査電子顕微鏡を用いて観察した。多収性品種では各枝梗および小穂の分化数が多いことを、幼穂分化時に把握できた。多収性品種は相対的に長い生殖成長期の間に、これらの分化器官を発達させ稔果実を形成したが、これがその大きなシンクサイスと、ソース機能の保持により支えられていることをものと推察した。窒素追肥やジベレリン処理により、多収性品種では二次の枝梗や分化穎花の数の増加が大きいことを認めた。幼穂形成期のジベレリン処理などにより若い小穂内構成器官に雌性化の異常が多発したが、その後十分に成長を遂げずに退化することを示した。 3.イネの葯や花粉の発達経過を明らかにした。また葯の冷温反応と幼苗の低温反応を品種コシヒカリと金南風を用いて比較検討し、両反応の性質に関連性が見られないことを明らかにした。4.脱樹脂法がイネの穂、茎葉や根系などの木化した材料の細胞組織学的観察に有効であることを示し、この分野における研究の展開を可能にした。
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