ブドウ属植物は世界中に分布し、古くから作物化されており、多数の品種を有する。これらの品種には由来の明らかなものは少なく、遺伝的解析は殆ど行なわれていない。育種素材として利用するにあたり、類縁関係を明らかにする必要がある。 ブドウ品種の親子鑑定にはGPIとPGMの二つの酵素を用い、35品種で検討した結果5品種について親子関係が合致しなかった。ヒロハンブルグのGpi-2とピオーネのPgm-2の遺伝子型からこれまで花粉親とされてきた甲州三尺及びカノンホールとは異なる結果が推定された。またニューナイヤガラのGpi-2と紅やまびこのPgm-2の遺伝子型からそれぞれの種子親に疑問が生じた。一方、わが国で認められているカノンホールマスカットはマスカットの芽条変異によるもので、四倍体ではないことが明らかとなった。 次いで、ブドウにおけるGPI及びPGMアイソザイムの遺伝と変異性、そしてこれら2酵素の三倍体品種育成への利用を試みた。供試材料全てに各酵素における品種内のバンディングパターンの変異は無く、99個体の二倍体品種及び8野性種20個体からGpi-2で13の対立遺伝子が、Pgm-2に11確認された。これらの結果からブドウ属植物では種間の遺伝変異が大きいことを示している。 二倍体品種6、四倍体品種4を交配実験に用い、遺伝子解析の結果Gpi-2及びPgm-2の遺伝子型が明らかになり、四倍体の15組合せから得られた98実生個体の内、3染色性のバンディングパターンの92個体は三倍体雑種であり、2染色体の6個体は二倍体個体であることを推定した。 これらの結果から、高い変異性を示すこれら二つの酵素は、ブドウ育種及び系統発生の研究に有用な手段になり得ることが示唆された。
|