トビイロウンカには長翅型と短翅型の2型があり、翅型は主に幼虫時の生息密度によって決められる。筆者の研究室では、国内および東南アジア各地から採集したトビイロウンカにおける翅型発現性は変異に富み、広範囲の密度で長翅型を圧倒的高率に発現するものから、短翅型を高率に出現するもの、それらの中間の様々な反応を示すものまで存在すること、これらは実験室内での選抜によって作出できることを明らかにしてきた。本年度は、本補助金によって購入した音響解析装置を用いて、国内外産採集群および室内選抜群について、トビイロウンカの交信手段である腹部振動を記録し比較した。方法としては、稲芽出し苗上に雄の成虫をとまらせ、腹部振動によって伝えられる振動波を、茎上に固定した微針を通してテ-プレコ-ダ-に録音し解析したものである。腹部振動の波型や間隔にはあまり差異は認められなかったものの、1秒当たりの振動数(PRFと略称)にはかなりの差異が認められた。すなわち、野外採集群では、日本、西ジャワ、北スマトラの順にPRF値は低下する傾向があり、逆に、短翅型発現性が高まる傾向があった。また、長翅型選抜群(Ms)のPRF値は80前後であるのに対し、短翅型選抜群(Bs)のそれは60前後で、前述の野外採集群のPRF値は両値の間に分布していた。これらの事実は、翅型発現性と関連してPRF値が変異することを示唆しており、翅型発現性の変異により交信にも変異が生じ、地理的変異、さらには種分化をもたらす可能性が大きく浮かび上がってきた。来年度は、さらに多くの野外採集群についての解析を進め、翅型発現性との関連を明らかにする予定である。
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