トビイロウンカは長翅型と短翅型という翅型二型を示すが、翅型発現性は基本的には遺伝的制御下にあり、大きな地理的変異があることを本研究室で明らかにしてきた。一方、トビイロウンカの雄は腹部を振動させ、それをイネを通して雌に伝えるコーリングシグナルを発するが、その振動数(Pulse Repetition Frequency:PRF)にも地理的変異があることが知られており、当研究ではそうした地理的変異の成因を翅型発現性とPRFの両面から解析しようとした。 トビイロウンカ幼虫にイネ芽出し苗を与えて25℃、16時間日長下に高密度条件下で飼育し、得られた成虫を防音箱に入れ、高感度のマイクロフォンを通して腹部振動を録音し、音響解析装置によって1秒当たりのPRF値を求めた。一方、異なる密度条件下で幼虫を飼育し、成虫の短翅型の比率から翅型発現性を調べた。その結果、当研究室で選抜によって作出した黄褐色短翅型系統およびインドネシア産のトビイロウンカは短翅型発現性が極めて高くPRF値が60に近いのに対し、選抜によって作出した黒色長翅型系統、および最近九州地方に飛来した長翅型を高率に出現するものではPRF値は80に近い事が判明した。このように、短翅型発現性の強いものほどPRF値が低下すること認められ、PRF値は翅型発現性と関連して変異することが示唆された。そこで、本研究では、さらに雄の振動信号の生理的特性を調査したうえで、振動信号にもとづいた系統の作出を試みた。すなわち、長翅型の雄個体から、PRF値の高いものと、低いものを選抜し、それぞれを長翅型の雌と交配させることを続けた。その結果、3世代以後に両選抜群間のPRF値に有意な差が認められるようになった。また、若干ではあるが、高いPRF値選抜群は低い短翅型率を、低いPRF値選抜群は高い短翅型率を示すようになり、PRFは翅型発現性と遺伝的に相関がある形質であることが支持された。
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