研究概要 |
上皮や内皮を裏打ちしている基底膜と呼ばれる構造体に含まれるラミニンは細胞の表裏極性決定、増殖、分化や遊走などの細胞機能に作用する。ラミニンはA鎖群、B1鎖群とB2鎖群が会合して3量体になり多様な異型体を作る。典型的ラミニンはAB1B2の組み合わせでできているが、A鎖がメロシンに入れ換わると筋肉膜ラミニンになり、B1鎖がS-ラミニンに入れ換わるとシナプス・ラミニンができる。我々が発見した血管内皮ラミニンでは、新しいA鎖群のメンバーであるA'鎖が登場しA'B1B2の3量体を作る。ウシの大動脈内皮細胞を培養すると、典型的ラミニン(AB1B2)と血管内皮ラミニン(A'B1B2)の両方が合成され、量比が血管新生抑制剤で変化する。最近、真皮の基底膜からカリニンという新しいラミニン族が発見されてた。動物の発生過程では、このように多様なラミニンが登場して器官形成の諸局面で役割を果たしている。 本研究ではヒト皮膚から得られた培養細胞を用いてカリニン類縁ポリペプチドの細胞内会合機構を解析した。この場合にも構成鎖の入れ換え機構が働いており、典型的ラミニン、カリニンに加えてK-ラミニンという新しい複合体が形成されていることを明らかにした。また、これらのラミニン関連鎖の会合と細胞内選別輸送に寄与する分子シャペロンにも解析を加えた。即ち、放射標識後の細胞を細胞膜透過性の架橋剤DSPで処理し、免疫抗体沈降後の電気泳動分析によってシャペロン様物質として検出したところ、牛動脈内皮細胞では80,60,50kDa、胎児性癌細胞では100kDa、ヒト皮膚細胞では90,70,50kDaのラミニン異形体に特異的なシャペロンの存在が示唆された。還元と非還元条件を組み合わせた二次元電気泳動の結果は、シャペロン様物質が1本のラミニン鎖に多数結合して作用することを示した。これらの結果に基き、ラミニン複合体の多様性発現の分子機構に関するモデルを提案した。
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