研究概要 |
エリスロポエチン(EPO)は赤血球前駆細胞の分化増殖を促進する蛋白質であり,赤血球の生産を制御する最も重要な因子である。成体では,EPOは腎臓細胞で合成分泌され,血流中を循環し,造血組織である骨髄に到達してその作用を発揮する。既に組換え型ヒトEPOが生産され,腎性貧血の治療薬として著効を示している。EPOは,その分子サイズ(35kDa)の約50%を糖鎖が占める糖蛋白質である。1分子のEPO当り3箇所にN結合型糖鎖(Asn結合型)が,1箇所にO結合型糖鎖(Ser結合型)が存在する。 一般に細胞分化増殖調節因子に結合した糖鎖の機能としては以下の機能が考えられる。1.蛋白生合成過程での適切な立体構造形成及び生合成後の細胞外への分泌など,糖蛋白質の生産を行う細胞での機能,2.分泌後の体液循環系における因子の寿命を規定する機能,3.因子の標的細胞への作用過程における機能である。 本年度は,EPO分泌における糖鎖の機能を明らかにする目的を持って研究を行った。N結合型糖鎖を欠失した各種EPOをイヌ由来の腎細胞MDCKに発現させた。MDCK細胞は膜上に培養すると極性分泌を起こすことが出来る。野生型EPOは,主に端頂側に分泌したが,N結合型糖鎖を欠失したEPOは端頂側と底側とに均等に分泌することを発見した。この事実は,EPOの糖鎖に新しい生物機能を発見したことになり,EPOの生合成に新しい研究領域を開拓したことになる。さらに,極性分泌法を利用した組換え型糖蛋白質の生産法について,組換え型蛋白質の単離工程をも考慮した効率の高い生産法を開発したことになる。またエリスロポエチン受容体の糖鎖についても,その生物機能に関する研究を行い,糖鎖がリガンドの親和力に影響を及ぼすことを見出した。
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